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2016年11月01日放送

【ラジオきのこらむ】part.15 食と脳と心のつながり(後編)

北海道大学教授の舩橋誠先生をゲストにお招きし、第14回に引き続き「食と脳と心のつながり」についてお伺いします。

舩橋誠先生プロフィール

岡山生まれ、岡山育ちで、所長とは岡山大学歯学部卒のクラスメイト。
現在は北海道の札幌在住、北海道大学歯学部教授として教鞭を取る。

人間だけが、楽しく食べる事が出来る!

動物は、空腹感や満腹感といった「生理的要因」で食事をしています。これは人間も基本的には同じですが、実は生理的要因に加えて、環境要因や社会要因も深く関係しています。

例えば、時計を見て12時になったのでご飯を食べたり、おいしそうな食べ物の匂いがしてきたらお腹がいっぱいなのについ食べてしまったり、食卓に座って食べている人を見かけると自分も食べたくなったりする等々…。

これは、一緒に食べると楽しい、良い匂いのするものを食べると楽しいというような心の感覚が関係しているのではないかと思われます。また、人間はおいしいものを食べるとニコッと笑顔になり、おいしそうな顔をするのも特徴です。

人間は空腹感+α(環境要因・社会要因)によって食欲が制御されているということですね。

椎茸に特徴的な「旨み」成分グアニル酸

きのこといえば特徴的なのが「旨み」ですが、これは「甘い」や「辛い」等の基本的な味の成分に加えて、日本人が提唱し、学術的にも認知されている成分です。

旨み自体は世界中の人が民族を超えて感じることができるのはわかっていますが、特に日本人の旨みに対する感覚は非常に鋭く繊細で、この成分を「旨み」として表現することができたのは日本人だけです。

旨み成分には、昆布だし、カツオだし、シイタケだしの三大旨み成分があります。椎茸の旨み成分は、「グアニル酸」という物質が素になっており、これは椎茸を天日干しにすると特に増えるということがわかっています。

椎茸のビタミンDで骨を丈夫に!

椎茸を天日干しにすると、旨み成分であるグアニル酸だけでなく、「ビタミンD」の量も増加します。人間は骨を作る時に、カルシウムはもちろん、ホルモンが必要なのですが、そのホルモンのうちの一つがこのビタミンDです。

ご年配の方は骨がもろくなってしまう「骨粗しょう症(オステオポローシス)」で悩む方も多いかと思いますが、予防に一番良いのは食べ物で補給することです。椎茸をはじめとするビタミンDが豊富な食材を、ぜひ食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか。

近年では機械で乾燥させた干しシイタケが一般的ですが、浅野産業㈱では椎茸を天日干しした後に、どのぐらい旨み成分が増えるのかを、総合研究所でグアニル酸とグルタミン酸の量を調べて、乾燥シイタケとして世の中にお出ししています。

おいしいきのこを食べると幸せになれる?!

人間は脳内でドーパミンが増えると、β-エンドルフィン(脳内麻薬)が分泌され、心地良くなったり、楽しくなったりするといった幸せな気分になります。このドーパミンやβ‒エンドルフィンを増やしてくれるのが、食べ物を食べた時の「甘味」ですが、最近の研究では甘味よりは少ないものの、「旨み」にも同じ作用があるのがわかってきました。

椎茸は一般的に甘く煮て食べることが多いと思いますが、「甘味」と「旨み」を同時に感じられるので、非常に良い効果があると思います。

美味しいものを食べることで、脳内で幸せな物質が出る。そして、食事を通じて毎日人とつながることで幸せ度が増す。これらが精神的なストレスを解消するだけでなく、脳を活性化し、痛みを抑え、免疫力を上げ、全身の健康に知らず知らずのうちに繋がっていきます。健康に良いものを食べることは、体が元気になるだけでなく、心の面でもプラスになるのです。

最後に舩橋先生から

歯科医師の仕事は、歯の治療をするだけではありません。全身の機能や、脳の機能、また、どれだけ幸せになったのかという心の部分にまで思いを巡らせて治療できるのが良い先生ではないかと思います。

脳にはまだまだ未知の領域がたくさんあります。そこから地道に、着実に基礎研究を積み上げていくことで、新しい歯科治療ができたり、人間がもっと幸せになったり、そして健康寿命をのばすことに貢献できればいいなと思いながら、研究を続けています。

「食べる事は楽しみです」と、お年寄りの方は皆さん口をそろえて言います。健康寿命をのばすことも大切ですが、やはり幸せでないと生きていても嬉しくないですよね。そういった「食べる幸せ」のお手伝いをするのが歯医者さんであり、我々基礎研究者だと思います。